2003年にNPO法人として設立された【四国自然史科学研究センター】
2013年には認定NPO法人となり、四国地方の自然史に関わる調査研究や普及啓発に関する事業に取り組まれており、「すさき野外博物館」にもご協力いただいています。
また、以前に移住者インタビューをさせていただいた『谷地森 秀二 さん』も立ち上げに関わっています。
 
まずは、センター長を務める山田考樹さんに、改めて設立の経緯をお聞きしました。

 
山田さん:四国地域の野生生物の調査研究を行うために、四国自然史科学研究センターが設立されました。四国地域を対象に生物を研究している方々と情報交換と連携が測れる組織を創りたかったこと、地域の自然史科学の証拠をの役割りを担う自然史博物館活動を展開したいという思いから団体が立ち上げられました。また、野生生物の研究は地域の大学が中心となって行われることが多く、高知大学では昆虫や魚類にまつわる研究が長く続けられています。設立当時は哺乳類の研究を行う機関が四国地域にはあまり多くなく、哺乳類に関する基礎的な資料が少なかったそうです。立ち上げメンバーには哺乳類を専門にしているものが多かったこともあり、そうした課題を補えたらという側面もありました。
 
──拠点が須崎になった理由を教えてください。
山田さん:設立当時、須崎市にある専門学校から「四国の環境・生物について学べるコースを新しくスタートさせたい。四国研メンバーが講師を受けてくれるなら、事務所として教室のひとつを提供します。」という声掛けがあったことが須崎に事務所を置いた理由です。その後、須崎市に事務所移転先を相談したところ、今の事務所である新荘公民館を紹介されたので移転し、今に至ります。」
 
観察会などのイベントの際に、お目にかかることが多い四国自然史科学研究センターの皆さん。普段のお仕事はどのようにされているのでしょうか。
研究員の柴山理沙さんにも加わっていただき、生物に興味を抱いたきっかけや今の仕事に至った経緯もお聞きしました。

 
山田さん:気が付けば、小さい頃から生物が好きでした(笑) 今、私はツキノワグマを中心に活動を行っていますが、ツキノワグマに関心を持つきっかけは学生時代にツキノワグマの保護管理を行っている機関へインターンに行ったことですね。今はツキノワグマに関して社会的に大きな問題となり、仕事として対策に関わる人も増えていますが、以前はそうした仕事は非常に少なかったため、本州の各地でツキノワグマや大型哺乳類に関する任期付きの仕事をしていました。そうした中で2011年からは、現在の所属である四国自然史科学研究センターで仕事をしています。
 
柴山さん:私は博物館の学芸員を目指していましたが、大学卒業後にそうした仕事に就けなくて、1年間は任期付きの別の仕事をしていました。職を探していると、四国研職員の公募を見つけたんです。学芸員ではありませんが、野生動物の調査活動や標本の収集といった博物館に近い活動をしているので、私がやりたい仕事ができそうだ、と感じて応募しました。
 
──もともとは別の地区で活動されていたんですか?
山田さん:そうですね。石川県や岩手県、山梨県でツキノワグマを含めた大型哺乳類の調査をしていました。
 
──本州の方がクマは多いですか?
山田さん:本州ではツキノワグマの分布域が拡大しており、個体数も複数の地域で増加傾向が見られています。特にここ数年は、人身被害や市街地出没など、人との軋轢が大きな社会問題になっています。一方、四国では分布域が縮小していることが国の調査で報告されていて、生息頭数も約30頭と推定されており、地域的な絶滅が危惧されている状況です。そのため、国や関係行政機関とも協力しながらモニタリング調査や保全活動などを進めています。

 
──もともとクマとは縁遠い生活なので、『意外といる』と思ってしまいました
山田さん:四国に約30頭生息していると言うと『意外といる』と思うのか『それだけしかいない』と受け取るのかは、とてもギャップがあって、我々からすると『それだけしかいないんだ…。ほぼ絶滅に近いじゃん』という感覚ですが、一般的にはそうでないことも多く、『そんなにいるんだ』と感想を聞くことも多々あります…。でも、人間が四国に30人しかいなかったら、生き残っていくのは大変ですよね(笑) 本州のように数が増えすぎると問題ですが、地域の生物多様性という面からも絶滅してしまうのは避けたいですよね。ツキノワグマは50万年前から30万年前に日本に渡来したと考えられています。人間が日本に渡来したのが数万年前と考えられているので、人間が住み着くよりも昔からツキノワグマは四国にいたことになります。絶滅を回避しながら人との軋轢を発生させないよう、人とクマとの棲み分けなどを行い、上手く折り合いを付ければいいなと思います。
 
──普段は四国のあらゆるところに調査に行っているんですか?
山田さん:そうですね。四国各地へ行き、調査や獣害対策など様々な取り組みを進めています。
 
──HPの活動内容に『傷ついた野生動物のリハビリ』と記載がありましたが、こちらについても教えてください。
山田さん:ケガをしたり、弱っている鳥獣を受け入れ、野生復帰させることを目標に治療および飼育をしています。四国研には動物園のような施設や設備があるわけではないので、大型の動物などが保護された場合は、高知市の『和(かのう)の森 わんばーくこうちアニマルランド』や香南市の『のいち動物公園』と連携して、傷病個体を受け入れてもらったりしています。

 
──個人的な取り組みとして調査に行くこともありますか?
山田さん:たくさんあります(笑)
柴山さん:私が専門としているネズミは、県や国から業務として依頼されることがなかなかありません。でも調査をしておかないと今のデータは撮れないので、高知県全域の調査に個人的に取り組んでいます。
 
──地域によって出るネズミの種類は変わりますか?
柴山さん:森の中にいるネズミを調べていますが、ネズミの種類は変わらないけれど、個体数に違いはあって、須崎はあまり多くない印象です。全体的にネズミは減っている傾向にあります。
 
──森の中にもネズミがいるんですね…!
山田さん:一般的に想像される家の中にいるようなネズミは、ほとんどが外来種ですね。
柴山さん:そうですね、ハツカネズミは家など人の生活圏の近くに生息していることが多いです。
 
──もともとネズミが好きだということでしたが、今はネズミをどのように捉えていますか?
柴山さん:子どものころは愛でる対象として見ていましたが、大学に入ってからは『このように数が変わるんだ』、『こんな風に暮らしているんだ』と、今まで見えていなかったものが見えるようになってきました。知れば知るほど、好きになっていきますね。

 
立ち上げメンバーから世代交代して、若い世代が率いている四国自然史科学研究センター。子どもたちに向けたイベントを定期的に開催していますが、後進育成について取り組まれていることを聞いてみました。
 
山田さん:昔と比べると、自然と関わる機会は減っているので、そのような機会を増やし、まずは自然を知ってもらい関心を持ってもらうことが大事だと考えています。そのため、自然観察会や標本の作り方講座などを開催しています。例えば、須崎市の事業である『すさき野外博物館』の運営を四国研で行っていて、高知県内を中心に子どもたちを対象に観察会を開催してきました。生物や地域の自然を深く知っていくことで、自然環境の重要性や面白さを実感してもらえたらと考えています。

(すさき野外博物館)
 
──子どもたちの自然や生物に対する関心は薄れてきていると思いますか?
山田さん:子どもたちが自然と触れ合う機会自体が減っていると思います。私の世代の時点でも自然と触れ合う機会はすでに減っていましたが、近年はさらに子どもたちが自然の中で遊べる機会や環境が少なくなっているように思います。集落周りの里山といわれるような場所も、昔は人が利用して手入れもされていましたが、近年は利用されなくなり、手入れ不足もしているため、子どもが遊べるような環境ではなくなっている場所が多いと思います。昔は集落周りの山や森林に入って遊んでいたと思いますが、そうした環境は少なくなっています。
 
──人の手が入らなくなったことで、遊べなくなっているという観点はありませんでした。
山田さん:自然の中での遊び方を知っている人も少なくなっています。そのため、観察会などで自然のことを知っている人が付き添って、そうした機会を作ることは大切だと思っています。
 
──『すさき野外博物館』の様子を見ると、大人の方々も興味深く講師の方の話を聞いている印象を受けました。
山田さん:親御さんの方が熱中するようなことも多くありますね。また、子どものころにこうした原体験があると、自然や生物に対する許容範囲も広がると思います。インターネットの普及によって情報は入手しやすくなっていますが、実際に体験するということは重要だと思っています。そうした体験がないと、生物をただ不快なものと感じたり、人にとって有益かどうかだけで生物の要不要を決めたり、極端な考えに至ってしまうことにも繋がるのかなと思っています。

(高知いきもの調査隊)
 
──センター長として長く活動を続けてこられた中で、活動が実っている感覚はありますか?
山田さん:昔と比べたら環境に配慮する度合いは上がってきていますし、県レベルで見ても生物多様性地域戦略が策定されたりと、社会的な認知度は高まっていると思います。ですが、高知県内でも直近10年間では絶滅危惧種の数が増加していたり、多くの課題が残れている現状であるので、今後も活動を続けていきたいですね。
 
──以前、立ち上げメンバーの谷地森さんにインタビューしたときに、以前は確認されなかった『ニホンジカ』が須崎市でも見られるようになったと伺いました。絶滅する動物がいる一方で、増える動物がいる理由は、どんなところにあるんでしょうか?
山田さん:ニホンジカだと、昔は大雪が降る年に死んでしまう個体が多くいましたが、地球温暖化の影響で雪が減ったことにより、自然環境下で死亡する数が減ってしまったり、中山間地域から人が減って、野生動物が増えやすい環境が広がってきているなど、野生動物を取り巻く環境が大きく変わってきていることが原因として挙げられます。また、昔は野生動物に農作物を食べられることは、生活に直結する大きな問題であったので、農耕地の防除や駆除など人里に野生動物を近づかせない人側の圧力も高い状況でした。

(獣害対策)
 
──須崎ならではの自然の魅力はどんなところでしょうか?
山田さん:高知全体の話になってしまいますが、都会に比べると自然がだいぶ身近に感じられますね。都会だと、蛍は山に見に行かないと見られませんが、高知だと家の近くの田んぼでも見られて、全国的には絶滅危惧種であるメダカも身近に見られます。他の地方から来たので、高知はどの河川に行っても水がきれいだと感じますね。また、地形的にも山・海・川がとても近く、須崎の海岸部から2時間かからずに天狗高原にも行けて、色んな自然を体感できる場所だと思います。
 
──例えば、この近くの新荘川沿いの山では、どんな動物が見られますか?
山田さん:タヌキやキツネ、イノシシもいますし、先ほど言ったようにニホンジカもいます。ヤマネやムササビなども見られます。ツキノワグマやカモシカ、高標高地に生息する小型哺乳類を除き、高知で見られる哺乳類の多くが生息していますね。
 
最後に、改めて四国自然史科学研究センターの活動の意義と今後の目標についてお聞きしました。
山田さん:地域の自然環境や生物多様性の保全は、人間が生活していく上でとても重要な問題です。ニホンカワウソのように見ることができなくなってしまう動物もいる中で、そのときどきの自然環境や生き物の状況を把握していくことは、人と自然が共存していく上で、基礎的な資料になると思います。
 
──生態系に変化が起きている中で、状況を把握する必要があるということですね。
山田さん:正しい現状が把握できていないと、解決しなければならない問題点の特定や適切な対応を行うことは難しいので、標本をはじめとした、科学的根拠となるでデータをしっかりと積み重ねて、行政機関や市民に情報を提示して、地域の自然環境の保全に貢献していきたいと思っています。
 
──センターとして掲げる今後の目標はありますか?
山田さん:高知県は中山間地域が多く、全国に先駆けて人口減少や高齢化が進んでいる地域であり、ニホンジカやニホンザルなどによる獣害をはじめとした、人と野生動物の軋轢が大きな問題となっているため、その解決に繋がるような提案や活動をしていきたいです。団体設立から20年近くツキノワグマの調査研究や保全活動を続けていますが、当初はツキノワグマがどのあたりに生息してるかさえ分からなかったものが、生息範囲や頭数について、ある程度把握することができてきました。今後は現状の把握にとどまらず、人との軋轢が起きていない四国の現在の状況を維持しつつ、絶滅を回避するための取り組みを地域と協力して進めていきたいです。さらに、四国研では骨格標本や剥製といった多くの自然史標本を所蔵しており、その一部を『高知みらい科学館』の展示に使っていただくなど活用を勧めていますが、ゆくゆくは自然史博物館のような施設で集積したものをより広く活用できるようにしたいと考えています。


 
地球温暖化や生物多様性、自然との共生という、昨今社会課題になっているトピックが度々話題に上がり、とても考えさせれる時間となりました。情報をスマートに入手できる時代だからこそ、自分の目で見て体感することの価値は上がっているのだと思います。
令和8年度では、8月29日と9月26日に『すさき野外博物館』が開催されるので、興味がある方はこの機会を逃さずに、ぜひ足を運んでみてください!

 
【認定NPO法人 四国自然史科学研究センター/ホームページ】
 
(2026年5月取材/片田・井上)